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ももせの好きな絵本のうちの一冊。
もう、何冊も、売ってきましたけれども、この絵本も、何冊でも売っていきたい。そう心から思っています。初めて読んだのは、大学2年生の頃でした。一緒にアートプロジェクトをやっていた、臼井くんから、みんなの集まりの晩餐の時に、この絵本を手渡されて、こう言われました。
「ももちゃん。ちょっとこれは、あっちの部屋で、ひとりで読んできて」
暗い部屋の中で、私は、ひとりきりで、この絵本に出逢いました。
とてもシンプルなお話。おじいさんと子どもが、みずうみのほとりにいる。夜がだんだん明けてゆく。朝の準備などをして、船でみずうみに乗り出す。
お話としては、それだけのようにも思えるけれども、よがあける、ということの、この星にいるのだということのうちにある、しずけさ。暗闇と、光。夜と朝。闇に顔をのぞかせる太陽の光が照らす、この世界の色。…
言いようもない感動に襲われながら、私は、この絵本の最後のページを見終えて、彼らのもとへ、帰っていきました。
あの日から、私の中にはずうっと、この絵本と、ここにあるよあけが、ある。
このあいだ、この絵本を薦めて買ってくれた常連さんが、家に帰ってこの絵本を読みながら、庭文庫の前の河のことを思い出していました。と、伝えてくれました。
私は意識はしていなかったけれども、そう言われてはじめて、ああ、確かに。と、思いました。
この庭文庫という場所をつくってくれているもののうちの、たいせつなもののありかには、この絵本も、あるのだ。そう、気づかされました。
この絵本のなかにある自然のしずけさ、風のそよぎ、空の動きや水の動き、仄暗さ、あかるくなってゆく、火を焚く、そうしたことのすべてが、私は、この絵本にあるものが好きなんだと思う。
このような場所を私は心に灯しながら、この庭文庫という場所をつくっているのかもしれない。
絵本のなかの世界は、絵本のなかの世界だけれども、それは、本の外の世界ともつながるものだし、それは、たぶん、私の奥深くのところにもあるもの。内と外とのつながりかたに、私は、すこし、驚いたものです。
どんな暗闇のなかにいたとしても、この世界には朝が来る。そのうつくしい色の世界が明日もまたやってくる。今日もまたやってきた。
私は暗闇のなかで朝を待ち望んでいたのかもしれないと思う。
この絵本に朝のありかを、そしてまた、暗闇のゆたかさを、そのしずけさの生命を、教えてきてもらったようなきがする。