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断片的な記憶が描く、世界のはじまりの風景
口伝えや書き伝えによって継承されてきた「世界のはじまり」
に関する物語は「創造神話」や「起源説話」と呼ばれ、
天地の誕生、最初の人間、動植物の由来等が記されている。
これらの物語では、魂や運命や自然といった
我々の周りにある理解しがたいものの大元が、
遥か昔の人間によって様々に描かれている。
本書では、20人の専門家たちが各地域における神話や伝説を紹介し、
画家・阿部海太の絵と一緒に「世界のはじまり」を物語る。
*「まえがき」より一部抜粋
ここに収められたのは、さまざまな「この世のはじまり」です。
口伝えや書き伝えによって継承されてきた
「世界のはじまり」に関するこれらの物語は、
「創造神話」や「起源説話」と呼ばれ、天や大地の誕生、
はじめて生まれた人間、動植物の由来などが記されています。
これらの神話と呼ばれる物語には、
書物になる以前の簡素で荒削りな話も数多くあります。
日常のなかで語り継がれ、時代が過ぎるにしたがって、
物語の細かな部分が消えていき、ときには、
物語の結末すら失われていくことがありました。
私はこういった神話や伝説を研究していますが、
こんなふうに質問されることがたびたびあります。
「なぜ、今、こんなに古い物語を読む必要があるのですか?」
「なぜ、こんなに不完全な物語が必要なのですか?」
「神話を読む意味を教えてください」と。
あらためて考えてみると、これはとても難しい問いで、
何が正しい答えなのか、正直なところ分かりません。
ですが、自分のまわりを見渡した時に湧き起こる「理解しがたいもの」への関心が、
神話や伝説を読みなおすきっかけだったと思います。
その「理解しがたいもの」はたくさんありましたが、とりわけ不思議に思ったのは、
「魂はどこからやってきて、どこへ帰っていくのか」ということでした。
そして、自分たちの努力ではどうにもならない「運命」についてでした。
私は、そういう「運命」のおおもとを説明してくれるのが、
「この世のはじまり」についての物語だと考えています。
(中略)
この本の二〇人の執筆者たちは、
収録されている神話や伝説が語られている地域の文化、
言語、芸術、歴史、社会を専門としています。
ページごとに、地域固有の特徴と、
神話に共通するイメージを感じ取っていただけると思います。
この本には、すべての地域のすべての神話が語られているわけではありません。
ですが、この本を通じて、「神話」の姿の一部を知ることができるのではないかと思います。
手に取っていただいたみなさんの想像がかきたてられ、
時空の無限の広がりを感じていただければ嬉しいです。
本書が、読者のみなさんの「神話」への関心の入り口となることを願っています。