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「物語の家族のように/母のように一本の木は/父のようにもう一本の木は/子どもたちのように小さな木は/どこかに未来を探しているかのように/遠くを見はるかして/凛とした空気のなかに/みじろぎもせず立っていた。/私たちはすっかり忘れているのだ。/むかし、私たちは木だったのだ。」(「むかし、私たちは」より)
いまの日本で、谷川俊太郎にならんで多くの読者の心を動かす詩人長田弘による、三年ぶりの新詩集。前作『死者の贈り物』は、親しかった場所や人や書物にささげられていた。21篇を収めるこんどの詩集ではもっと自由に、私たちをとりかこむ自然や世界を歌っていてみごとである。
I
世界の最初の一日
森のなかの出来事
遠くからの声
森をでて、どこへ
むかし、私たちは
空と土のあいだで
樹の伝記
草が語ったこと
海辺にて
立ちつくす
II
春のはじまる日
地球という星の上で
緑の子ども
あらしの海
For The Good Times
秋、洛北で
メメント・モリ
カタカナの練習
見晴らしのいい場所
nothing
私たちは一人ではない
あとがき