other
『水中の哲学者たち』を書いた、哲学研究者であり、哲学対話のファシリテーターである、永井玲衣さんの新たな本が出たので、入荷しました。
晶文社から刊行された『水中の哲学者たち』は、哲学エッセイとしては異例とも言える、数万部売れてきたそう。うちの店でもよくおすすめして売っています。
哲学に興味があるけど、難しいし、なにからどう読めばなにがわかるのかもわからないなどと、哲学にまつわる本に手を出さない方がおられるけれども、そんな方々には永井さんの『水中の哲学者たち』を、入門にどうぞと薦めてきました。彼女の書く文章には、堅苦しく小難しいところがほとんどなく、私的で詩的な情緒に溢れ、具体に、生活に根ざした言葉に満ちているからです。哲学という言葉にこだわらず、エッセイがお好きな方にはみなにおすすめしたいと、個人的には、思います。
彼女が実施する、哲学対話というものは、彼女の書いたものを読むかぎり、特になんの制約や制限もなく、あるひとつの問いをめぐりながら、その場にいる人たちが、聴き、話す。そういう言葉をわかちもつ時間であり、場所。僕は『水中の哲学者たち』を読み、ああこれはまるで〈ことばという海のなかにみなで浸る〉ような体験だなあと、それは永井さんの文章に浸りながらだけども、感じました。
個々人はそれぞれに分たれていて理解不可能な存在者たちであるけれども、でも、言語をやりとりするコミュニケートを通じて、まなざしやしぐさを通じて、それをまなざし、まなざされ、聴き、感じあうことを通して、個と個を超えたなんらかの伝達をおこなうこともできる。かつて自分の言葉を誰かに伝えることが苦手だったということを、確か書いていた永井さんは、哲学対話の〈水の中〉で、人間と人間との、そして人間を超えたあまねく世界との対話を続けておられるのだろうと、僕は思っています。
机の上で抽象的に、孤独のうちに思考をするのだけが哲学なのではない。うちでおすすめをしている哲学者の鷲田清一さんの『「聴く」ことの力』などのように、ある現場に身を置き、具体と具体として、その生身の身体でこの生身の世界に耳を澄ませ、目を澄ませることで、はじめて感じ思考することのできるものがある。
世界の適切な保存
永井玲衣
講談社
1870円税込
✳︎
百瀬雄太