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判型 四六判
頁数 570頁
定価 5,500円 (本体:5,000円)
ISBN 978-4-622-09693-1
Cコード C0098
発行日 2024年4月16日
〈日記を読んで心を動かされる。これは今のぼくに、もはや少しの確信もないせいだろうか? あらゆるものがぼくには仮構であるように見える。他人のどんな言葉も、ぼくがたまたま見たどんな光景も、ぼくのなかのすべてのものを、忘れていたものやまったく無意味なものですら、別な方向へ転がしてしまう。ぼくは前にそうだったよりも確信がなく、ただ生命の力だけを感じている。そしてぼくは意味もなく空っぽだ。ぼくは本当に、夜、しかも山のなかで迷ってる羊か、もしくはその羊のあとを追いかける羊のようなものだ。こんなに見捨てられていながら、それを嘆き悲しむ力を持っていないのだ〉(1913年11月19日)
カフカの研ぎ澄まされた五感が捉えた日常、それを受けとめるカフカの心の世界。書くことへの思い、フェリーツェはじめ女性への苦悩、父との葛藤、不眠の苦しみ、ユダヤ人社会のこと、詳細な夢の描写、さまざまな創作スケッチ… そのすべてはカフカの文学に連なり、それ自体が文学になっている。
新潮社版『決定版カフカ全集』(全12巻)の第7巻(1992)を底本に、日記文学の金字塔を、カフカ没後100年の2024年、新たに世におくる。
目次
日記
1910年
舞姫エドゥアルドーヴァ この五カ月 ぼくが受けた教育は 「孤独な独身者との対話」 ケラーマンの朗読会 ぼくの現状は ぼくの机は
1911年
最初の長篇小説 都会ふうの世界 ブロート著『ユダヤ女たち』について シュタイナー博士を訪ねる 「四人の仲間」 画家クビーン ゲーテの日記 ユダヤ劇団 娼家―夢 イディッシュ劇『シュラミース』を観る チシク夫人 母について わが家の騒音 『バル・コクバ』を観る リシュパンの講演 劇場で―夢 蒐集家Nの話 石版画 晦日の恐怖 甥の割礼 小国民の文学 父の少年時代 ぼくの中・高等学校時代
1912年
ぼくの朗読の才能 タルムード大学 女工たち レヴィの朗読の夕べ 剽窃事件 モイッシィの朗読会 「誘惑」195 父とベルリンへ―夢 悪魔について F・B嬢 『判決』を書く
1913年
『判決』について 「エルンスト・リーマン」 ぼくの結婚についての賛否の総括 Fの父への手紙 リーヴァの思い出 「商人メスナー」
1914年
AとL ぼくの自殺 勤めをやめてベルリンへ? 「馭者ヨーゼフ」 「婚約の祝い」 「白い馬」 「女主人と下宿人」 「隣室の男」 「ぼくの計画」 ぼくの婚約 「店を畳む」 「市庁役人ブルーダー」 村での誘惑 「天使の降臨」 婚約解消と旅行 「ヨーゼフ・K」 「現行犯」 「保険会社社長バウツ」 カルダ鉄道の思い出 Bl嬢への手紙 ぼくの家族との関係 登場人物の死についての計算 ドストエフスキーのための弁明
1915年
「十字軍の剣」 Fとボーデンバッハにて 自己認識の欺瞞 東ユダヤ人と西ユダヤ人 ハンガリー旅行 奇蹟ラビを訪ねる ランガーのユダヤ物語から 戦時公債を買う
1916年
「ハンスとアマーリア」 兵役につきたい 「奇妙な裁判慣習」 もう計算は止せ Fへの手紙
1917年
「猟師グラックスの船」 「われわれの王様」 「尋ね人」 「乞食の言い分」 『流刑地にて』の断章 「サムソン将軍」 Fがきた 父の講演―夢 ディケンズの『コパーフィールド』について タリアメント会戦の夢
1919年
1920年
1921年
日記をミレナに渡す 荒野遍歴の意味
1922年
学べ、四十男よ ルドルフ叔父との比較 美しい円 ぼくの自己展開 シュピンドラーミューレにて ヴェーダ経より ブリューアー批判
1923年
旅日記
フリートラントとライヘンベルクへの旅(1911年1月-2月)
フリートラントのホテル フリートラントの城 皇帝展望館 ライヘンベルク
ルガーノ――パリ――エルレンバッハへの旅(1911年8月-9月)
アリーツェ・R ルツェルン リギ登山 ルガーノ湖周遊 ミラノ パリ エルレンバッハのサナトリウムにて サルセー著『パリ包囲』について 再びパリ 自動車物語
ワイマル――ユングボルンへの旅(1912年6月28日-7月29日)
ライプチヒ ワイマル・ゲーテ館 シラー館 ゲーテ館の娘グレーテ リスト館 王室納骨堂 ベルヴェデーレ宮 パウル・エルンストを訪ねる グレーテとのランデヴー ヨハネス・シュラーフを訪ねる ハレ ユングボルンのユダヤ人 ユングボルンの自然療法サナトリウムにて
異文
《付録》
原注(マックス・ブロート)
あとがき(マックス・ブロート)
カフカ略年譜
カフカが住んでいた時代のプラーク旧市内地図
カフカ家系図
訳者解題
待ちに待った復刊!――解説にかえて(頭木弘樹)
人名索引
フランツ・カフカ
Franz Kafka
1883-1924。小説家。オーストリア=ハンガリー帝国のプラハ(現在はチェコ)のユダヤ人の家庭に生まれる。法律を学んだのち労災保険局に勤めながら作品を執筆。著作は数編の長編小説と多数の短編、日記および恋人などに宛てた膨大な量の手紙から成る。生前に『変身』など数冊の作品が出版されたが、ごく限られた範囲で知られるのみだった。死後、中断された長編『審判』『城』『失踪者』をはじめとする遺稿が友人マックス・ブロートの編集により発表され、世界的な評価をうけた。今日では20世紀の文学を代表する作家と見なされている。
マックス・ブロート
Max Brod
1884-1968。カフカと同じオーストリア=ハンガリー帝国のプラハ(現在はチェコ)生まれのユダヤ人。作家・評論家・作曲家。カフカの遺稿の管理人として、自己の信念にもとづきカフカの遺稿を次々に公刊、1935年からは『カフカ全集』の編集に尽力した。1939年パレスチナに移住、生涯の最後までテルアビブで活動した。著書は『フランツ・カフカ』ほか多数。
谷口茂
たにぐち・しげる〉
1933-2021。ドイツ文学者・宗教学者・小説家。明治学院大学名誉教授。著書に『若き医師の告白』(新潮社)『フランツ・カフカの生涯』(潮出版社)『宗教の人間学』(東京大学出版会)、編著に『内なる声の軌跡――劇作家ヘッベルの青春と成熟』(冨山房)などがある。訳書はローレンツ『鏡の背面』『人間性の解体』『自然界と人間の運命』(以上、思索社)ほか多数。
頭木弘樹
かしらぎ・ひろき
文学紹介者。筑波大学卒。大学3年の20歳のときに難病になり、13年間の闘病生活を送る。そのときにカフカの言葉が救いとなった経験から、『絶望名人カフカの人生論』(新潮文庫)を編訳。他の編訳書に『絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ』(草思社文庫)、著書に『カフカはなぜ自殺しなかったのか?』(春秋社)、近刊に『決定版カフカ短編集』『カフカ断片集』(共に新潮文庫)などがある。