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二十世紀後半のアメリカ現代詩の世界で活躍し、孤独のうちに詩作をつづけたイグナトー。
訳者が選りすぐった67篇、そして60頁以上となる訳者のエッセイと、各章に原文を一篇ずつ収録!!!
「詩人というのは、仮にどんな光があたったところで、物のなか、言葉の背後に、その姿をそっと隠している。だから探しにいこう。見知らぬ異国の、詩の交差点で、出会い頭、いきなり、イグナトーとぶつかる、なんてことがあるかもしれない。」(小池昌代 栞文「転がるベーグルを追いかけよう」より抜粋)
【作品紹介】
「神、ひとりはいてほしい I Wish a God Were Possible」
神、ひとりはいてほしい、
すくなくともわたしに対しては、いてほしい、
いる、と知るだけでわたしはみたされ、
わが死とともにわたしは信じるひととなり、
太古からつづく想起の力が
記憶ある世界にわたしを生きたまま保全してくれて、
そしてそのなかをわたしは子供たちがそうであるように、ゆるしを得て
あるきまわっていて、自己という永遠を感知して、空のたかみを見つめ、
じぶんは空のたかみの一点であると気づき、
その空は無限なのだと気づく子供たちがそうであるように。
子供たちとはそうしたものなのだ、ならば、
神、いてほしい、と、のぞむわたしは、ひとりの子供、
のぞみそのものは、わたしじしんのなかで、
ひとりの神、無限を帯びて。
デイヴィッド・イグナトー
(David Ignatow, 1914-1997)
ニューヨーク市ブルックリン地区にロシア系ユダヤ人の移民の子として生まれ育つ。
1948年第一詩集『詩集』以後最晩年まで精力的に詩作した。代表作『死者を救え』(1968年)のほかに20数冊の詩集がある。W・C・ウィリアムズ、ホイットマン、ハート・クレイン、ボードレール、ランボーの詩に学ぶ。シンプルで高密度の文体から飛躍的に展開される宗教哲学的幻想が特色。
千石英世
(1949- )
アメリカ文学者、文芸評論家、詩人。
著書に『白い鯨の中へ─メルヴィルの世界』(増補版彩流社)、『小島信夫─暗示の文学、鼓舞する寓話』(同)他。訳書に『白鯨』上下(講談社文芸文庫)他。詩集に『地図と夢』(七月堂)。