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判型 A5判
頁数 416頁
定価 4,180円 (本体:3,800円)
ISBN 978-4-622-07074-0
Cコード C1011
発行日 2004年4月1日
人間の根源的な能力ともいえる、「記憶」とは一体どのような意味を持つものなのだろうか。この巨大で困難な問題に、さまざまな領域を横断し、そしてまたさまざまな方法を駆使しながら迫った、精神科医・中井久夫の学問的到達点。そこには著者にとってさえまったく未知の地平がひらかれることになった。「記憶」とは、自らにかけがえのない固有の経験にも、さらには「統合失調症」や「外傷」といった太古の昔から現代にまで直結する病の具体的な治療の現場にも、その最も重要な動因として関わっている。
第1章では、自らの経験を踏まえ、記憶を発動する「索引と徴候」という全く新しい理論が素描される。それを受けて第2章では、「短期記憶」と「長期記憶」といった人間特有の二種類の「記憶」の原理が明らかになる。そして第3章、第4章では、その原理が、それぞれ「トラウマ」や「統合失調症」の具体的な治療の現場において検証され、適用される。さらにそれは第5章においては「犯罪学」の症例として、また第6章では「身体」の新たな意味づけへと発展させられる。
このような「記憶」の再検討は、精神、病、言葉、身体、文化といった術語を、新たな「知」の体系のもとに編成し直す。本書はまた、精神医学だけでなく、哲学、文学、心理学、認識学、犯罪学等に再考をうながす刺激的な問題提起の書でもある。
目次
まえがき
1 徴候
世界における索引と徴候
「世界における索引と徴候」について
2 記憶
発達的記憶論——外傷性記憶の位置づけを考えつつ
3 外傷
トラウマとその治療経験——外傷性障害私見
統合失調症とトラウマ
外傷神経症の発生とその治療の試み
外傷性記憶とその治療——一つの方針
4 治療
医学・精神医学・精神療法は科学か
統合失調症の経過と看護
「統合失調症」についての個人的コメント
5 症例
統合失調症の精神療法——個人的な回顧と展望
高学歴初犯の二例
「踏み越え」について
6 身体
身体の多重性
「身体の多重性」をめぐる対談——鷲田清一とともに
*
アジアの一精神科医からみたヨーロッパの魔女狩り
あとがき
中井久夫
1934年奈良県に生れる。京都大学医学部卒業。現在神戸大学名誉教授。精神科医。著書『中井久夫著作集——精神医学の経験』全6巻別巻2(岩崎学術出版社、1984-91)『分裂病と人類』(東京大学出版会)『記憶の肖像』(1992)『家族の深淵』(1995)『アリアドネからの糸』(1997)『最終講義——分裂病私見』(1998)『西欧精神医学背景史』(1999)『清陰星雨』(2002、以上みすず書房)ほか。共編著『1995年1月・神戸』(1995)『昨日のごとく』(1996、共にみすず書房)訳書にエレンベルガー『無意識の発見』上下(共訳、弘文堂、1980)のほか、みすず書房からはサリヴァン『現代精神医学の概念』『精神医学の臨床研究』『精神医学的面接』『精神医学は対人関係論である』『分裂病は人間的過程である』、ハーマン『心的外傷と回復』、バリント『一次愛と精神分析技法』(共訳)、ヤング『PTSDの医療人類学』(共訳)、『エランベルジェ著作集』(全3巻)、パトナム『解離』、さらに『現代ギリシャ詩選』『カヴァフィス全詩集』『リッツォス詩集 括弧』、ヴァレリー『若きパルク/魅惑』などが刊行されている。