new
秋田 環日本海文明への扉
著 伊藤俊治
写真 石川直樹
3960円税込
内容紹介
【推薦】中沢新一さん
「列島の北の果て、日本の奥の奥へとつながっている秋田は、一つの独自の宇宙をつくりなしてきた。そこを原郷とする写真論の思想家は、愛情をこめて、土地の細かな襞々を克明にたどり、忘れられかけた歴史の記憶を呼び覚ましながら、広大にして深々とした、魂の秋田ジオラマを描き出した。」
**********
古来、蝦夷と大和朝廷の境界に位置した秋田は、松尾芭蕉が『奥の細道』で辿り着いた北の到達点にして、日本海特有の哀愁を漂わせる、歌枕の聖地であった。
北限の秋田。先は魑魅魍魎が跋扈する未開の地……
しかし、「文明」の行き止まりとされたその地こそ、日本海以北の海を挟んで、大陸や島々の人々が行き交う北方民族たちの文化ネットワークへの玄関口であった。
異国から来訪する「マレビト」が起動する文化変容。
厳寒の雪国で洗練されていく精神と美意識。
従来の枠を超えて美術/写真史を論じてきた美術史家が、故郷・秋田を歩きながら、その風土の深層へと分け入り、日本文化の底流にある異形の風景を鮮やかに現前させる。
日本のもうひとつのルーツを解き明かす「裏日本史」。
**********
【目次]
第①章 旅する光陰 ──その奥の奥の細道──
❶北限の岬
❷ 循環する聖水
❸松尾芭蕉と海に漂う島々
❹集積する詩学
❺旅に死すこと
❻旅人の秋田
❼蝦夷島の影 蝦夷島の影
❽アイヌとの交流
❾旅を揺り動かす
➓フィールドワークの先駆者
第②章 北海の彼方へ ──流刑地民族学の視点から──
❶日本海という孵化場
❷秋田の登場
❸渤海と粛慎
❹樺太への道
❺流刑地を延長する
❻流刑地民族学へ
❼鳥居龍蔵と源泉としての北方
❽北緯40度ノート
❾心は淋しき旅人
第③章 雪国の民俗 ──伝承の意味──
❶蘇る写真
❷ナマハゲと梵天
❸民俗学写真の精髄
❹風と土を彫る
❺秋田パノラマを開く
❻雪国の衝動
❼日本の奇跡
❽トンネルの向こう側
第④章 縄文の粒子 ──四次元の秋田──
❶岡本太郎の秋田
❷馬と牛、縄文と弥生
❸雪の結晶と遮光土器
❹ドキュマンを探して
❺マルセル・モースの弟子たち
❻縄文とアイヌ
❼人種の波動
❽蓑虫山人と縄文仮面
❾ストーンサークルの秘密
➓縄文のネットワーク
⓫四次元の秋田
第⑤章 宇宙から降るデザイン ──雪の家から秋田工芸まで──
❶白井晟一の温泉建築
❷郷土建築とモダニズム
❸風土をかたちに
❹白井晟一と縄文的なもの
❺今和次郎と雪との戦い
❻ペリアンのデザイン改革
❼秋田から沖縄へ
❽木地師たちの光跡
❾原型の夢
➓宇宙へ降り積もってゆく
第⑥章 秋田原郷 ──その風土と世界性──
❶故郷と幼年時代の思い出
❷日本海の文物交流
❸黒水靺鞨からナナイへ
❹ツングース系諸族のゆくえ
❺謎のオホーツク文化
❻菅江真澄とブルーノ・タウト
❼冬を美的に解決する
❽カントの風土
❾人間学と自然地理学
➓「世界=故郷」を愛するということ
第⑦章 秋田街道を超えて ──雪の果ての銀河──
❶宮沢賢治が歩いた秋田街道
❷銀河と月光
❸セールスマンの哀しみ
❹秋田蘭画への道
❺漂泊の絵画
❻角館の悲劇
❼雪の涯の風葬
❽組石からマタギへ
❾旅マタギと漂流民
第⑧章 白い神々の憑依 ──オシラサマとシャーマニズム──
❶「秋田風俗問状答」とネフスキー
❷巫女のオシラ遊び
❸イタコの口寄せ
❹馬産と養蚕
❺「遠野物語」から「捜神記」へ
❻アイヌ文化との関わり
❼オヒナサマを透視する
❽白山信仰の源流
❾ツングース民族大移動
➓稲と白山信仰
⓫渡り神としてのオシラ様
⓬シャーマニズムの本源
第⑨章 春くる鬼 ──異人たちの饗宴──
❶折口信夫と蝟集する霊
❷マレビトの変容
❸鬼神と鬼門
❹漂流する仮面
❺島から半島へ
❻兄弟の半島
❼日本海の龍神
❽ホカヒビトとマレビト
❾流浪する神
第⑩章 風の身体 ──土と光の記譜法──
❶天空の不夜城
❷蝦夷から武士へ
❸踊る秋田
❹闇から放たれた流星
❺風土と神話
❻亡者の舞踏
❼黄金の穂波
❽秋田の呪術師
❾身体風土の記譜法
**********
著者紹介
伊藤 俊治(いとう・としはる)
1953年秋田県土崎生まれ。東京大学文学部美術史学科卒業、同大学院人文科学研究科修士課程修了。東京藝術大学名誉教授。専門の美術史・写真史の枠を越え、アートとサイエンス、テクノロジーが交差する視点から多角的な評論活動を行う。『ジオラマ論』(リブロポート、ちくま学芸文庫)でサントリー学芸賞を受賞。展覧会企画に「日本の知覚」(グラーツ)、「移動する聖地」(ICC)、「記憶/記録の漂流者たち」(東京都写真美術館)など。著書に『写真都市』 (冬樹社)、『トランス・シティファイル』(INAX)、『生体廃虚論』(リブロポート)、『電子美術論』(NTT出版)、『バリ芸術をつくった男』(平凡社新書)、『増補 20世紀写真史』(ちくま学芸文庫)、『バウハウス百年百図譜』(牛若丸)ほか多数。
石川 直樹(いしかわ・なおき)
1977年東京世田谷生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人類学、民俗学への関心を深め、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表する。2008年『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により日本写真協会賞新人賞、講談社出版文化賞、2011年『CORONA』(青土社)により土門拳賞、2020年『EVEREST』(CCCメディアハウス)、『まれびと』(小学館)により日本写真協会賞作家賞を受賞。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』(集英社)、『地上に星座をつくる』(新潮社)ほか多数。