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今更ですが、先月展示をしてくれていた堀太一さんのお好きな本の1冊がいまさら届きました。取次さんと僕とですこしやりとり失敗しまして、それで遅くなってしまった。堀さんごめんなさい。エリアーデの『鍛治師と錬金術師』。エリアーデ著作集第五巻。せりか書房。さすがはせりか書房というこの造本の渋さ。僕はせりか書房の本とてもよく読んできました。なんとも馴染みのあるこの難解そうさ。たまらないです。エリアーデの本はいろいろ読んできましたが、これはまだ読んでおらず。読もうと思いつつ。ピンとくる方にはきっと、おもろいはずです。エリアーデの学識は素晴らしいです。おすすめ。
今ふと検索したら、堀太一さんがこの本にまつわる文章をnoteに書いておられるのを見つけました。
全文シェアしちゃおう。引用文として。
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ミルチャ・エリアーデは1907ー1986年に生きた人。
いわゆる近代と呼ばれる時代。
だけれど、中世の論考のように膨大な範囲を扱いながら論が展開されていく。
どこで知ったか忘れたが、中世は数論、音楽、幾何学、天文が一つの学問の体系としてまとめられていると言われている。
今の学問からすると数論と幾何学は「数学」になるし、音楽は「音楽」、天文は「科学」になる。確かにバッハを聞くと星の動きを彷彿とさせるのは、そんな学問体系の中で生きたバッハの足跡なのかな、とも思わせられる。
現代の学問体系は昔とは違うけど、例えば宇宙際タイヒミュラー理論を作った望月博士も欅坂46の「サイレントマジョリティー」が氏の論を説明していると言っているように、学問とは様々な分野を渡り歩きながらその深みを構築するのだろうなと感じられる。
前置きが長いが、この本もそんなふうに現代の学問体系の頭では読んではいけない本の一つ。
僕はかねてより錬金術に興味があり、たどり着いた一冊である。
錬金術というと一般的に「何もないところから金を作る方法」みたいに捉えられている。まぁ、翻訳を失敗したのと、拝金主義の賜物だと思っている。
金銀財宝はどうでもよく、現代でいえば化学のこと。
ただ中世の錬金術は宗教ときわめて密接で、キリスト教を信仰している国では聖書の物語を化学的な実験で追体験する、ということが主になっていた。代表的なところは「ベツレヘムの星」だろう。
僕自身、陶芸をしていることもあり、火の中で釉薬が変化するということが何か神的行為のように幼いころ感じ、錬金術に近しい感覚を覚える。
この本の第8章「火の親方」はまさしく鍛冶師と陶工の話となっている。
自然の熱ー太陽や大地の内部からのーが非常に永くかかって熟成したのもを、火はこれまで夢想だにしなかった速さで変形させた。この造物主的熱狂はあの幽暗な予感から生ずる。
エリアーデ著作集 第5巻 鍛冶師と錬金術師
瀬戸黒、引き出し黒とも呼ばれるが、焼成中の高温の窯の中から光を放つように白くまばゆい器を引き出す様子は、何か禁忌の行為をみているような気持ちになる。
当時の陶工らがどんなこと感じていたのか、残っている書物はないが、エリア―での記した論考のように火を火として見るにはとどまらない創造力が渦巻いていたのだろうなと追体験している。
堀太一
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エリアーデの本やせりか書房のお堅くておもろい本などを庭文庫にどれほど入荷可能かなと長らく悩む。そう簡単に売れるわけではないが置いてあるといいというか置いておきたい本はある。このエリアーデ著作集なんかもそうだ。
もういいや増やしちゃえというのが近頃の僕の気持ちだ。これからたぶん選書の切れ味がさらに増します。なぜならそのほうが僕がわくつくからです。ちなみにこのエリアーデ著作集第五巻は『文化のなかの野性 芸術人類学講義』の関連本でもあります。
百瀬雄太