












【世菜さんの好きな本②】向田邦子 『夜中の薔薇』 新装版 講談社文庫
引き続き、「春光呪詛」を行う世菜さん瀀さんのお好きな本たちのご紹介を。「憧れの人」だという向田邦子さんの本を世菜さんがご紹介。以下です。
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◯ 向田邦子 『夜中の薔薇』 新装版 講談社文庫
「君の憧れの人を挙げなさい」
そう言われたらまず真っ先に、「向田邦子」の名前を挙げる準備はいつでも出来ているのだが、そんな機会が未だ一度もないので、無理やり知人に勧めまくったり、拙zine『あなたを食べて生きてきた』に長々と思い入れを綴ったり、髪型を真似たりして憂さを晴らしている
この本の最後に収録されているエッセイ「手袋をさがす」にぶん殴られたのは二十歳の頃 それ以来お守りとなり、百回は読み返しているがいつも新しい発見がある
本物は古くならない
向田さんは、そう静かに教えてくれる
向田邦子の文章には、
ときに過剰と言えるほどの自虐癖があると思います
それがご本人の凛とした佇まいと相まって独特の面白さにつながっていることは間違いなく、思わず声を立てて笑いながらページをめくることもしばしばですが、
10年ほど読み続けてようやく、ああ、あれは嫉妬も羨望も人の何倍も受けたであろう向田さんの処世術でもあったのか、と
今になってそんなことに気がつきます
あらゆる分野で遺憾無くその魅力と才を発揮し、
若くして突然の死を迎えた向田邦子
私が特に好きなものに限っても枚挙にいとまがなく、
本業の脚本家として書かれた大傑作『阿修羅のごとく』、
エッセイ『眠る盃』、小説としては『かわうそ』、
ひいては『向田邦子の恋文』、『向田邦子の手料理』、
『向田邦子 暮しの愉しみ』などなど、向田さんの哲学や美意識に触れられる本は数多く出版されています
どれも大好きですが、
今回、この『夜中の薔薇』を選んだのには理由があります
巻末に収録された、爆笑問題の太田光さんの名解説
これがあってこそ一層『夜中の薔薇』は、艶めく
絶対に新装版をお勧めしたいのもこれが理由です
実は、太田さんが一冊丸々使って向田作品の解説をした
『向田邦子の陽射し』という夢のような本があります
絶版なので今回は紹介リストに入れていないのですが、
本文の一部を引用します
「無垢で強い気持ちというものは、無垢なままにしておくと、時としてそれを持ち続けている自分を崩壊させるほどの力を持つからだ。だから人はそれを言葉にして、記号化して、共通認識にして、"自分の気持ちに似てるもの"に変換することによって、少し無垢じゃなくし、楽になろうとするのだ。"言葉"は、そうやって人を救う。
向田さんはその"言葉の救い"を断固拒否している。そしてその態度を一生貫き通した。それが向田邦子の"覚悟"だ。
"自分の気持ち"を"自分の気持ちに似てるもの"にすることを、絶対に許さなかった。」(p.75)
太田光『向田邦子の陽射し』
どこかで見つけたらぜひ買って、
『夜中の薔薇』と併せて読んでください
いま目があったあなた 約束ですよ
世菜
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世菜さんが紹介文に向田さんのいくつかの本の名をあげておられたので、店内にないものかなと探したところ、向田さんの古本文庫本は前に常連さんがたくさん贈ってくだすったのでその時はいろいろとあったのですが、だいぶ売れたようで、でも『向田邦子 暮しの愉しみ』はありました。その他はこの2冊。また入荷しよう。
百瀬雄太