other






























正直なところこれほど快を伴う文藝誌を、僕はたぶん初めて読んだ。先日この文藝誌『灑(さい)』の主宰の詩人、彼は前に庭文庫に泊まりに来てくれた、彼の詩集も、うちでは取り扱いがある。その方が、この文藝誌を僕に恵贈くださり、家の庭で読み、非常に深い感動を贈られた。ありがたい。ことである。こんなにも響き合える方々がいる、そのことにもだし、僕はこの文藝誌のなかの詩人の大半は、お名前を存じ上げなかったのだが、そんなことはなにも関係がなく、ただそれぞれの詩の素晴らしさに、ただただ感激し、気持ちがよかった。なんて心地のよい僕の好みの詩が編まれた文藝誌なんだろうかと、今、これを庭文庫で再び手にとり開き読みながら、この身心に満たされるしずやかなる白銀のような霧状のものに身を燻らせながら、思うものだ。これはきっと、いや絶対に、庭文庫に置かれてあるとよいと思い、入荷です。観てみてほしい。騙されたと思い、ひとまず。感じてほしい。この本の、隅から隅までにのこだわりようを。そしてこのこだわり、これほどまでにあるべきすがたを物体として具現したこの本が、2200円税込で、買えるという。そんなことがありえるのか。思わず彼に訊いてしまった。利益大丈夫なのですかと。それくらいのこだわりようである。
✳︎
文藝誌「灑(さい)」
上製本/A5変型版/140ページ/2,000円
【寄稿者】赤澤玉奈、板見谷諒汰、小縞山いう、菅原百合絵、 関根健人、成田凜、花氷、広橋山羊 、砌アイコ、峯澤典子
【表紙絵・扉絵】冬野
発行者: 文藝誌「灑」編集部
印刷所: 有限会社西村謄写堂
発行日: 2025年5月1日 初版第一刷
文藝誌「灑」について
「灑(さい)」とは、「そそぐ」「きよらか」「ながれてたえないさま」などの意味を表すことばです。 ことばについた手垢をそそぐ過程が詩歌を書く一側面であると感ずること、とどこおらず読むたびに新鮮な感覚を持てる文藝誌にしたいという願い、加えて「麗」にさんずいがつくという文字自体のうつくしさと合わせて、この命名としました。
無防備で、贅沢な文藝誌を目指して。
主宰が憧れを持つ、8名の詩人と1名の歌人にそれぞれお声がけをして寄稿をしていただきました。皆さん長く時間をかけて、この「灑」に向きあってくださいました。 寄稿する内容については自由とし、長さなどもとくに制限を設けませんでした。ただ、不思議なことに、共鳴し重なりあうような作品たちが集まりました。どこかクラシカルで、でも新しい。それぞれの作品が自律しながらも、影響を及ぼし合うような文藝誌になったと思います。 「灑」の寄稿作品に一貫して見られるのが、ことばへの「真摯さ」「誠実さ」です。 詩歌にふれてきた年数も、活躍する場所も、もちろん志向する詩歌の形式も違う寄稿者たちの作品が、一冊のなかで交わることで「灑」はふくらみのある〈辻〉になっていると感じます。
装幀・製本について
寄稿者の皆さんの詩歌を損ねないように、しっかりとした"器"をつくらなければという思いがありました。極力邪魔をせず、それぞれの詩歌が伸びやかに息をできるような、そんな本を望みました。 "憧れ"に本というかたちを与えてくれたのは、高知県にある印刷会社の有限会社西村謄写堂さん。 細かなオーダーにも丁寧に対応してくださいました。
表装と見返しについて
上製本の表装は「ポルカ ソーダ」、見返しは「羊皮紙」を使用しています。株式会社竹尾さんの店舗で選んだ用紙です。「灑」という語の水のイメージから、ティファニーブルーを意識して、碧みががった水色を選びました。
空押しと題箋について
表紙絵の部分は「題箋」という、写真集などでよく見られる手法です。 上製本のボール紙を表装のうえから空押しで凹ませ、別に印刷した紙を貼り付けています。一冊ずつ、西村謄写堂さんに手作業でやっていただいています。
箔押しについて
箔押しは銀色ではなく「フレッシュウォーター」という清潔な水色の箔を採用。 背表紙の題は、本棚に並べたときに読みやすいフォントに。表紙の題は、表紙絵になじむよう手書き文字になっています。
表紙絵・扉絵について
この本に表情を与えてくれたのは、ふだんから植物や鳥に心を寄せている冬野さんの表紙絵・扉絵。 濃やかな配慮のもと、寄稿された作品を読んで描いてくださいました。かたちは違えども「灑」を支えるもうひとつの詩歌です。
本文(フォント)について
本文のフォントは字游工房さんの『文游明朝体S 朝靄かな StdN R』を使っています。 「朝靄かな」は、詩を組むことを想定してつくられたもの。クラシカルな詩歌集を意識しながら、大きめの文字でゆったりと組みました。
✳︎
僕はこの文藝誌『灑』と出逢えて幸福である。ここにある詩歌たち詩人たち、それから数多くの方々の手を借り作られた、本当に誠実な、大事な本。こういうものをこそ売りたい。そう思います。有り難う。
店頭、webで。
百瀬雄太